訪問診療を開始するタイミングは?

コロナ禍で在宅医療の需要が増加したためか、或いは当院が神経難病の訪問診療を行っていることが少しずつ広まってきたためか、2020年度は23名の新規訪問のご依頼を頂きました。

(2019年度は9名)

 

<紹介元>

 ・患者さん・家族より直接連絡:8名

 ・施設(グループホーム、有料老人ホーム):6名

 ・ケアマネージャー:3名

 ・個人病院:3名

 ・基幹病院:2名

 ・訪問看護ステーション:1名

<疾患別>

 ・パーキンソン病:5名

 ・筋萎縮性側索硬化症:3名

 ・進行性核上性麻痺:2名

 ・多系統萎縮症:2名

 ・球脊髄性筋萎縮症:1名

 ・脊髄小脳変性症:1名

 ・大脳皮質基底核変性症:1名

 ・アルツハイマー型認知症:3名

 ・レビー小体型認知症:2名

 ・その他(脳腫瘍、慢性腎不全、関節リウマチ):3名

 

23名中15名が指定神経難病の患者さんでした。

場所としては、市中心部の割合が徐々に増えてきていますが(8名)、郊外の住宅団地への訪問も9名(施設の6名は除く)あり、これまでと変わらず広範囲への訪問を行っております。

 

紹介元ですが、患者さん・ご家族から直接電話でお問い合わせいただくことが増えております。在宅診療について調べるときに、このホームページが役に立っているようでうれしく思います。

 

一方、基幹病院からの紹介は、2名/年であり多い数字とはいえないでしょう。

面識のない若いDr.が増えてきていますので、患者さんが在宅診療を希望するときに当院が選択肢として挙がっていないのかもしれません。

 

 

◎いつから訪問診療を開始したらよい?

「通院が難しくなってきたけれど、自宅での生活を続けたい」場合、特に「最後まで自宅で生活したい」場合には、いずれ訪問診療が必要となります。

患者さんやご家族、ケアマネージャーや訪問看護、あるいは外来主治医は、どのタイミングで訪問診療を依頼したらよいのでしょうか?

2ヶ月前に私が経験した事例を例に挙げて考えてみたいと思います。

 

【患者】

60代男性、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、郊外の住宅団地(市内まで車で30分)

【経過】

・2年前に構音障害で発症。市内の基幹病院脳神経内科にて診断され、ラジカットの点滴を開始。

・通院困難となったため、団地内の内科診療所にてラジカットの点滴を継続。

・2~3日前より息苦しさが出現し、食事が摂れなくなった。団地内の内科診療所に相談したところ、点滴、在宅酸素療法が開始となった。

 

この時点で、訪問看護師より当院に相談の電話がありました。

・気管切開や胃ろうはしないことを選択している患者さんである。

・本人は自宅で最後まで生活したいという思っているが、苦しむようであれば最終的に入院するのは仕方ないと考えている。家族は可能であれば最後まで家で看たいと考えている。

・今回、息苦しさに対して団地内の内科診療所では対応できていない。どうすればよいか?呼吸苦に対応可能な病院を知っているか?

 

もともと通院していた基幹病院に連絡をとり、呼吸苦に対する緩和ケアを開始してはどうかとアドバイスしたのですが、酸素吸入により呼吸苦は少し楽になったそうで、遠方に住む医療関係者の娘さんが翌日帰ってくるので今後のことを相談することになった、とのことでした。

しかし、翌日、早朝に自宅で亡くなったと訪問看護より連絡がありました。

 

酸素開始によりCO2ナルコーシスとなり、呼吸不全が進行したものと思われます。結果的には穏やかな看取りとなりましたが、呼吸苦の出現から亡くなるまでの時間は通常よりもかなり短いものであり、ドタバタした中でのお別れはご家族にとって辛いものとなったかもしれません。

 

詳しい事情はわかりませんが、各関係者は精一杯対応したのだと思います。

ただ、少ない情報からではありますが、少し厳しく検討してみると以下のような疑問が浮かんできます。

・気管切開を希望していないということであり、最後は呼吸不全で亡くなる可能性が高い。患者さん、ご家族とも最後まで家で生活することを希望している。

 → 医療関係者は自宅で看取ることを想定していたか? その準備(緩和ケア、環境調整など)をしていたか?

・呼吸機能検査を定期的に行っていたか? 今回の呼吸苦の出現は予測できなかったのか?

・基幹病院から団地内の内科診療所への紹介は、何を基準に行ったのか? 単に近いから? ラジカットの点滴のためだけ? 

・呼吸筋麻痺が進行している状態でラジカットの点滴は必要だったのか? 

・NPPV(非侵襲的陽圧換気)の導入は検討していたのか? 呼吸リハビリは行っていたのか?

・呼吸苦の緩和ケア(モルヒネなど)について、医療関係者は知っていたか? 経験はあるか?

 

私自身の経験からも、基幹病院の脳神経内科の外来で、これらのことを詳細に検討していくことはなかなか難しいと思います。忙しくて一人一人にあまり時間をかけることができないからです。

また、在宅での実際の生活をみることができないため、1~2ヶ月に1度の外来受診で患者さんからの訴えだけでは対応が後手に回ってしまうのも仕方ありません。

 

よって、比較的進行の速い神経難病の場合は、診断直後から在宅診療を行う医療機関が関わっていくことが望ましいと思います。すぐに訪問診療を始める必要がない時期であっても、在宅療養の体制づくりについてアドバイスができますし、通院困難となったら速やかに在宅医療へ移行することが可能となるからです。

今回の事例も、ALSの緩和ケアの経験のある訪問看護ステーションと診療所が早期から在宅療養に関わっていれば、また違った展開となっていたのではないでしょうか。

 


 

<神経難病の患者さん・ご家族へ>

・自宅が好きで、自宅での生活を続けたいと考えているのであれば、早い段階で外来主治医、ケアマネージャー、訪問看護ステーションなどに相談して、将来訪問診療をしてくれる医療機関を探しておいてください。

・当院に相談したい場合は、直接ご連絡いただくことも可能です。当院からの訪問診療を行うかどうかにかかわらず、アドバイスをさせていただきますので、遠慮なくお電話ください。

 

<訪問看護ステーションへ>

・担当している在宅の神経難病患者さんのことで、疑問に思うこと、悩んでいることなどがあれば、いつでも当院に相談してください。当院が関わることがない場合であっても構いません。

 

2021年04月03日