介護業界の闇・・・、そして在宅療養の勧め

検索エンジンで「介護業界の闇」と検索すると、実に多くの記事やブログが見つかります。

介護施設でのパワハラ・入居者への虐待、ブラック事業所、介護スタッフの質の問題、などの内容は、書籍やニュース番組などでもしばしば取り上げられてきました。

介護施設で実際に働いた経験のない私には、どこか他人事のように感じておりましたが、最近友人のK医師より彼女が体験した介護施設のブラックな話を聞き、そのひどさに強い衝撃を受けました。

 

以下、彼女の体験を紹介するとともに、施設に入らずに最後まで自宅で過ごすための方法について提案したいと思います。

 

 

K医師は、社会福祉法人S会が運営する特別養護老人ホームI苑の配置医師として、開設当初より入居者の健康管理を行ってきました。

特別養護老人ホームは看取りの場としての機能が求められていますが、実際は配置医師による医療的な対応や終末期での看取りは行わずに、すぐに病院へ救急搬送する施設もまだまだ多いのが現状です。そんな中、K医師は休日、夜間を問わず往診の求めに応じ、5年間で100名以上の看取りを行いました。施設の看護師・介護スタッフも協力的であり、非常に良い施設であると感じていたそうです。

しかし、1年前にI苑の施設長が交代となってから、状況が一変しました。新しい施設長の強引なやり方やパワハラに耐えられず、ベテランの介護職員が次々と辞めていったのです。新しく入る介護職員は素人同然の人も多く、彼らがまたすぐに辞めていくという悪循環の中、介護の質はどんどん低下していきました。簡単な見守りさえ徹底されず、転倒事例も急増したそうです。看護師たちはその状況に危機感を覚え、施設長のやりかたに異を唱えましたが、全く聞き入れてもらえませんでした。それでも、入居者のためとがんばっていたそうですが、社会福祉法人S会の忘年会の席で、そこの理事長より「うちは利益を上げることが最優先であり、文句があるならいつ辞めてもらっても構わない」という言葉を浴びせられ、絶望した彼女たちはその数ヶ月後に退職してしまいました。

すなわち、施設長が交代したことにより、看護師・介護職員ともに大幅に入れ替わり、建物は同じでもI苑の中身は開設当初とは全く別物になってしまったのです。

K医師も、施設長に暴言を吐かれるという信じられない経験をした後に、配置医師を辞したとのことです。

 

このエピソードからは、次のような介護業界の問題点が読み取れます。

・公益性を求められる社会福祉法人が、利益最優先の介護施設運営をしている実態

・法人内、施設内ではパワーハラスメントが横行するような古い体質

・経営陣は介護職員の能力を軽視しており、介護の素人でも代わりがきくと考えている

厳しい言い方をすると、「営利を最優先する社会福祉法人(理事長や幹部)が、老人介護業界を食いものにしている」のです。そこには、強者が弱者(介護職員、入居者)から搾取する典型的な構図があります。

 

K医師から聞いた話は、実はどこにでも転がっているようなことなのかもしれません。もちろん、真摯に入居者のことを考え運営している介護施設も多いと思います。しかし、全国的にも介護職員の離職率はきわめて高いという事実があり、その背景には施設の運営の問題があるのは間違いないと私は思っています。

介護施設がより多くの利潤を追求しようとすると、得られる介護報酬には上限があるため、より少ない職員数での施設運営の方向に向かうしか方法はありません。やりがいのない、賃金の安い、ハードな職場となるため、職員は次々と入れ替わっていきます。介護職員の使い捨てのような状態が生じてしまうのです。そして、それは結局入居者への不利益へとつながるのです。

 

施設の内情は、短時間の見学だけでは到底わかるものではありません。

また、ホームページも何の参考にもなりません。社会福祉法人S会のホームページでも、理事長の挨拶は美辞麗句で飾り立てられており、内情を知らなければその理念の偽善に気づくことはできないでしょう。

家族を施設に預ける場合、今回紹介したような施設ではないという保証は全くないことを、肝に銘じておく必要があるのです。

 

介護施設の多くは、みなさんが想像・期待するような理想の場所ではないのです。

 

 

それでは、要介護の家族を自宅で看ることがきなくなったと考えている場合、あるいは独居で一人では生活出来なくなった場合などは、介護施設への入居以外の選択肢はあるのでしょうか?

 

私たち在宅医療・介護を行っている者は、その質問に対して自信を持って「yes」と答えられるようになりたいと考え、日々努力しております。

訪問介護、通所介護、通所リハビリ、訪問診療、訪問歯科、訪問看護、訪問リハビリ、訪問入浴など、今は在宅にて様々なサービスを受けることができるようになっています。

家族が介護で大変な思いをしなくても、在宅で過ごすことができるのです。

施設入居を考える前に、信頼できるケアマネージャー・訪問看護師・医師とともに、自宅での生活を続けることが出来るかどうか、ぜひ一度検討してみてください。

 

私が関わった患者さんの一例です。

・支払いの問題で特別養護老人ホームを退去させられた脳出血後遺症の男性は、多職種での関わりにより、認知症の妻とともに自宅で快適に生活することが出来るようになりました。

・独居のパーキンソン病患者さんは、自由に自宅で生活し、本人の希望通り自宅で最後を迎えることができました。

 

持ち家がある方、今住んでいる場所に強い思い入れがある方、施設での生活が苦手な方、他人に指図されず自由に生活したいと考えている方は、まずは在宅医療・介護を利用することをお勧めします。

そして、そのような方たちに在宅での生活を楽しんでもらい、そのQOL(生活の質、人生の質)があがることこそが、在宅医療・介護を提供する者にとって最上の喜びとなるのです。

 

 

2020年10月01日