「科学的認知症診療 5 Lessons」 のLesson 1 (2)


 

薬を服用することにより、ふらつき、食欲低下、失禁、認知機能低下などが誘発された状態を「薬剤起因性老年症候群」と呼びます。

高齢者におけるポリファーマシー(薬の飲み過ぎ)は、気がつかないうちに「薬剤起因性老年症候群」を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

日本老年医学会のホームページに、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」と「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」が公開されています。高齢者医療に携わる医療従事者は一度は目を通しておくべきでしょう。

 

Lesson1 認知症診断の原則(P1~P42)
3.薬剤起因性老年症候群(P15~P20)

第一世代抗ヒスタミン薬

・第一世代抗ヒスタミン薬は強力な抗コリン作用があり、意識障害、口渇、便秘などの危険があるため、65歳以上の患者さんには使用回避するようピアーズ基準(米国老年医学会が公開)で推奨されている。

・65歳以上の人で急に物忘れや不穏や幻覚体験が出現した場合は、総合感冒薬(PL顆粒やピーエイ錠など)が処方されていないかどうかを必ず確認する必要がある。

・ドラッグストアで販売されている総合感冒薬の中にもたいてい第一世代抗ヒスタミン薬が含まれているので、お薬手帳だけでなくそれらを買っていないかどうかも確認すること。

 

三環系抗うつ薬とパロキセチン

・三環系抗うつ薬は抗コリン作用が強いので、75歳以上の人には可能な限り使用を控えるよう推奨されている(日本老年医学会)。

・パロキセチン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬の一種)も抗コリン作用が強い(ピアーズ基準)。

 

抗コリン作用のあるパーキンソン病治療薬

・①抗精神病薬による錐体外路症状の防止には役立たない、②パーキンソン病治療のためにはより効果的な薬が使用可能、という理由により、トリヘキシフェニジル(アーテン)やビペリデン(アキネトン)などの抗コリン薬は65歳以上には使用しない方がよい。

 

抗コリン作用のある過活動膀胱治療薬

・過活動膀胱治療薬の一部は抗コリン薬であり、尿閉、認知機能低下、せん妄の危険がある。

(ポラキス、トビエース、ブラダロン、ベシケア、デトルシトール、など)

・過活動膀胱に対してあまり効いていない、あるいは効果がわからないということであれば中止が妥当。

 

H2遮断薬

・シメチジン(タガメット)、ファモチジン(ガスター)、ラニチジン(ザンタック)などの全てのH2遮断薬は認知機能低下とせん妄の危険があるので、高齢者には可能な限り使用を控えるよう推奨されている。

 

ベンドジアゼピン受容体作動薬

・ゾルピデム(マイスリー)、ゾピクロン(アモバン)、エスゾピクロン(ルネスタ)は、「非ベンゾジアゾピン系睡眠薬」と称されることもあるが、実際はベンゾジアゼピン受容体作動薬そのものである。

・ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、常用量でも依存の危険がある。ジアゼパム(セルシン)は投与開始2週間~4ヶ月で依存が形成されると推測されている。

・イギリスでは、漸減期間を含めて4週間までの処方に制限されている。フランスでは、不眠治療に使うときは4週間まで、不安治療に使うときには12週間までの処方に制限されている。

・一般臨床医が在宅でベンドジアゼピン受容体作動薬を使うべ機会はほとんど存在しない。

・中止による離脱症状(禁断症状)として不安、焦燥、うつ、集中困難、いらいら、不眠、筋肉痛、けいれん、ぴくつき、知覚過敏が出現することがある。

 

認知症性疾患が疑われた際は、認知症性疾患と診断する前に必ず上記の医薬品の使用歴を確認し、使用している場合は中止を検討する。中止できない場合は認知症性疾患と診断するのを保留する。診断保留のまま抗認知症薬を上乗せしてはいけない。




過活動膀胱の薬や胃薬(ガスターなどのH2遮断薬)は、ついつい簡単に処方してしまいますが、患者さんの年齢や使用期間を常に意識しておく必要があるようですね。

 

総合感冒薬に関しては、風邪(急性上気道炎)を早く治す効果はありませんので、年齢にかかわらず服用しないほうがよいと思います。

 

特別養護老人ホームに入居している患者さんは、向精神薬が処方に含まれていることが多いのですが、その中でもベンゾジアゼピン受容体作動薬の頻度が高いように思います。認知症がある高齢者にそういう薬剤を使用している現状を、私たち医療従事者はもっと深刻に受け止め反省をしないといけません。

2020年02月29日