著者:小田陽彦(兵庫県立ひょうごこころの医療センター精神科医師)
発行:2018年10月9日
一般臨床医向けに書かれた認知症のテキストです。
非常に充実した内容であり、まえがきやあとがきからは認知症診療を向上させたいと願う著者の思いが伝わってきます。
(まえがき より)
本書には、認知症の人に当たり前の医療を普及させたいとの思いを込めました。
(あとがき より)
認知症治療はしばしば難しいですが、難しくさせている原因の1つは医療者側の知識不足であり、ある当事者の言葉を借りるならば「人災」という側面もあることは否定できないと思います。
本書の構成ですが、1.認知症診断の原理原則、2.画像診断の意義と限界、3.抗認知症薬、4.精神症状への対応、5.医療者ができること、と5項目に分けて解説されています。
それぞれの項目について、医療従事者でない方にもわかりやすいようにご紹介していきたいと思います。
Lesson1 認知症診断の原則(P1~P42)
1.認知症という疾患は存在しない
・認知症をきたす病気は多数あり、アルツハイマー病はそれらのうちの1つに過ぎない。
・抗認知症薬の効果が実証されているのは、アルツハイマー病とレビー小体型認知症のみであり、それ以外の疾患では効果が期待できなかったり副作用によりかえって悪化することがある。
・物忘れという症状に薬を出す前に、まずは診断することが重要。
2.認知症診断は除外診断
・「認知症もどき」の除外診断を最初に行うことが重要。
正常範囲の記憶力
軽度認知障害
せん妄、うつ病
てんかん
薬剤起因性老年症候群(薬剤により認知機能低下などをきたした状態)
認知機能低下をきたす内科疾患・脳外科疾患
・除外診断のために、病歴、身体所見、心理検査、血液検査、頭部画像検査(CTまたはMRI)が必要。
・「軽度認知障害」を診断する必要があるかどうかは疑問。軽度認知障害の段階で抗認知症薬を使った場合、効果はプラセボ(偽薬)と差はなく、その割に悪心・下痢・嘔吐などの副作用はプラセボよりも多く発現するという科学的根拠が示されている(CMAJ.2013;185(16):1393-401)。
・除外診断を行った後に、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症などの鑑別を行っていく。
認知症症状の患者さんを診るときに、安易にアルツハイマー病と考えずに、治る可能性がある状態や疾患でないかどうかを確認することが大事であるということです。
認知機能低下をきたす内科疾患・脳外科疾患(treatable dementia)の代表的なものとしては、甲状腺機能低下症、ビタミン(B1やB12)欠乏症、特発性正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫などが挙げられます。
詳しい鑑別に関しては、国立国際医療研究センター膠原病科のサイトを参照してください。